いとうさん伝説~エピソード1~
「みんながみんな
私は無宗教ですといっていたので
ムシュー教という新興宗教があるみたいだと
思ってしまいますスミマセン。」
髪を赤く染めたいとうさんが話しかけてきた。
仕事中なのにまたいつものおしゃべりが始まったか
と聞き流しモードに入った。
「俺は和製仏教だ。
特にじいちゃんの葬式のときに痛感したよ。
親父が喪主をつとめたがあまりに大変そうだったので
俺は喪主はやりたくないと思った。
が、実際そうもいかない。無宗教葬だったらいいのにと思った瞬間
俺はこの宗教に属していると気づいた。
親が死んで喪主をやるのと
親より先に死んで賽の川原で石を積むのは
どちらが大変なのか教えてくれ。」
聞かれたのでしょうがなく
「知りませんよー。そんなバチあたりなー。」
と答えると
「バチか…
バチは何教の教えだったっけ
というか君は何教だ?」
とまた聞かれたので
「無宗教です」
と、ウザイと思いつつキッパリ答えると
いとうさんは
”それでいい”という感じの表情で笑って
斜めに割れたキットカットを
ふたつくれた。
その夜、
外の庭でラジオ体操をしながら
ジョージが来るのを待っていると、
西新宿の空の方から不安定な動きをした光がこっちに向かってきて
庭に落ちた。何かの機械らしい。
日本の電器メーカーのロゴが入っていた。
分解してみると中から
豚か牛かわからないが、動物の毛のようなものと一緒にミンチ状の肉が大量に入っていた。
ものすごく臭いし、何の肉かも分からず食べるわけにもいかないので、
機械ごと道頓堀川へ沈めた。
しかも結局その夜ジョージは来なかった。
いつもは約束をすっぽかされてイライラするところだったが、
今日はなぜかジョージのことが少し心配になった。
自分で言うのも何だが僕はこうみえて敏感な方だし頭脳明晰。
一を聞いて十を知るタイプだ。なにかあればすぐに分かる。
だが今日は寝よう。大した事件性も無さそうだ。
ジョージのことも、あの肉のことも、
不可解だが何ら関連性の無いイベントが多い夜だった。
完